配偶者からの暴力によってあざや赤みができたものの、「全治数日程度の軽いけがだから」「入院するほどではないから」と、慰謝料の請求を諦めていませんか。身体的な暴力は、けがの程度にかかわらずパートナーの身体や尊厳を損なう不法行為であり、軽傷であっても法的に慰謝料を請求できる可能性があります。ただし、軽傷の場合は「どのような暴力がどのくらいの頻度で行われていたか」という不法行為の継続性や、心身に与えた影響を客観的に立証することが重要です。そのためには、けがが軽度であっても医療機関を受診し、通院記録や診断書を適切に残しておくことが欠かせません。この記事では、けがの重さとDV被害の関係や、医療機関を受診する意味、証拠の集め方と時系列のまとめ方をわかりやすく解説します。まずはご自身の安全を最優先に考えながら、必要な事実を冷静に整理するための判断材料としてお役立てください。
けがの重さだけでDV被害が決まらない理由
「骨折や入院を伴うような大けがでなければDVとは認められないのではないか」と不安に思う方も少なくありません。しかし、法的な観点において、DV被害の重大性はけがの見た目や治癒期間だけで決まるものではありません。
身体的暴力そのものが持つ不法行為性
配偶者に対して手をあげる行為は、どのような理由があっても許されない身体への侵害であり、不法行為(法律上の違法行為)に該当します。たたかれた部分がうっすら赤くなっただけ、あるいは小さな擦り傷やあざで済んだとしても、相手の身体に不当な力を加えたという事実に変わりはありません。けがが軽いからといって、暴力そのものが正当化されることは決してありません。
暴力を背景とした精神的支配と恐怖
DVの本質は、身体的な傷そのものだけでなく、暴力やその威嚇によってパートナーを恐怖させ、自分の支配下に置こうとする点にあります。一度の暴力で生じたけがは小さな擦り傷であったとしても、「いつまた手をあげられるかわからない」という継続的な恐怖は、被害者の心を著しく摩耗させます。法的な手続きにおいても、単に傷の深さだけでなく、暴力によって対等な夫婦関係が壊され、精神的な自由が奪われていたかどうかが重視されます。
軽傷でも医療機関を受診しておく意味
けがが軽いと「この程度で病院に行くのは気が引ける」「市販の薬を塗っておけば治る」と受診をためらいがちですが、医療機関の受診には客観的な事実を示すうえで大きな意味があります。
客観的な第三者による被害の記録
ご自身で書き残す日記やメモとは異なり、医師という専門的な第三者が作成する診療録(カルテ)は、非常に高い客観性と信用性を持ちます。受診した日付、受傷した部位、けがの具体的な状態が医療記録として公的に保存されることで、「いつ、どのような負傷が生じていたか」を客観的に証明する強い根拠となります。
暴力とけがの因果関係を明確にする
けがをしてから日数が経過してしまうと、「別の理由でできたあざではないか」「不注意による事故ではないか」と相手から反論されるおそれがあります。受傷後すみやかに受診し、「配偶者からたたかれた」と受傷理由を医師に伝えておくことで、相手の暴力行為と生じたけがとの間の因果関係(原因と結果のつながり)が強く裏付けられます。
目に見えない心身の不調に対応する
暴力を受けた直後は興奮状態にあるため、自分自身の痛みや体調の異変に気づきにくいことがあります。また、時間の経過とともに不眠やフラッシュバック、強い不安といった精神的な症状が現れることも珍しくありません。早期に医療機関を受診しておくことは、身体の手当てだけでなく、その後の心のケアやメンタル面での受診履歴を残すためにも大切な一歩となります。
診断書・写真・診療明細をまとめて保存する
医療機関を受診したあとは、将来の法的手続きやご自身の安全確保に備えて、関連する資料を確実に保管しておくことが必要です。
診断書の発行依頼と記載内容の確認
病院で受診した際は、医師に診断書の発行を依頼することができます。診断書には、傷病名や全治にかかる見込み期間などが記載されます。診断書の中に必ずしも「DVによる」という直接的な表現がなくても、暴力の直後に受診して作成された診断書は、被害の存在を示す貴重な資料となります。
けがの写真を適切に撮影・保存する方法
けがの写真は、被害の状況を直感的に伝える強力な資料になります。撮影する際は、けがの部位を拡大した写真だけでなく、身体のどの部分かが判別できる引きの画像や、撮影日時が確認できる工夫をして残します。撮影した画像データは、相手に発見されて消去されるリスクを防ぐため、パスワードで保護された安全な保管先や信頼できる外部の場所にバックアップを取っておくことが大切です。
領収書や診療明細書を保管する意義
受診時に発行される領収書や診療明細書も捨てずに保管しておきましょう。診療明細書には、どのような検査や処置が行われたかが詳細に記録されているため、受診の事実を補強する資料になります。また、治療にかかった費用は、慰謝料請求や損害賠償の交渉において実害を証明する具体的な数値として活用できます。
暴力の繰り返しと恐怖を時系列で伝える
軽度なけがを中心に慰謝料を請求する場合、「単発の行き違いによる事故」ではなく「継続的な暴力と支配のなかで起きた被害」であることを示す構成がポイントになります。
出来事を時系列にまとめた一覧表の作成
過去に受けた暴力や暴言について、覚えている範囲で「いつ」「どこで」「どのような状況で」「どのような暴力を受けたか」を日付順に整理したメモや一覧表を作成します。一度のけがは軽傷であっても、それが月に数回、何年にもわたって繰り返されていたことが視覚化されると、被害の継続性と悪質性が明確に伝わります。
生活への影響や恐怖の度合いを記録する
暴力行為の事実だけでなく、その結果としてご自身の生活にどのような支障が生じたかも書き添えます。「恐怖で夜眠れなくなった」「相手の顔色をうかがって外出も制限されるようになった」といった心理的な影響や生活上の制約を具体的に記録することで、目に見えにくい精神的苦痛の深さを伝えることができます。
安全を確保した上での証拠集めと相談
証拠を集めたり資料を整理したりする行為によって、相手に気づかれ暴力がエスカレートする危険は絶対に避けなければなりません。危険を感じる場合は、一人で無理に証拠を増やそうとせず、まずは警察や配偶者暴力相談支援センター、弁護士などの専門機関に相談し、安全な避難や保護を優先させてください。
まとめ
配偶者からのDVによるけがが軽度であったとしても、身体的暴力や不当な支配が存在する以上、慰謝料を請求する権利は認められ得ます。けがの深さだけで被害の重大性が決まるわけではなく、軽傷だからといって我慢し続ける必要はありません。
大切なのは、一人で抱え込まずに医療機関を受診して通院記録や診断書を残し、日々の出来事を安全な方法で少しずつ記録しておくことです。ただし、証拠を集めること以上に、あなたご自身の身の安全と心身の健康が何よりも優先されます。
相手への直接の問い詰めや危険を伴う行動は避け、警察や配偶者暴力相談支援センター、法テラスや弁護士などの専門機関へ相談しながら、安全を確保したうえで今後の選択肢を整理していきましょう。
参考情報
・内閣府男女共同参画局「配偶者からの暴力被害者支援情報」
・警察庁「DV(配偶者からの暴力)被害者の安全確保」
・法テラス(日本司法支援センター)「DV・モラハラに関する法的支援」
注意事項
※この記事は一般的な法的手続きや考え方の情報を提供するものであり、個別の事情や証拠の状況によって具体的な法律上の判断や慰謝料額は異なります。安全の確保や具体的な法的手続きにあたっては、警察や専門の相談機関、弁護士へご相談ください。


