配偶者からのDV(暴力やモラハラ)から逃れ、ようやく安全な生活を始めた矢先、子どもから「お父さん(お母さん)に会いたい」と言われて戸惑ってしまう保護者の方は少なくありません。激しい争いや恐怖の場面を経験したはずなのに、なぜ会いたがるのかと混乱したり、避難という自分の決断を責められているように感じたりすることもあるでしょう。
子どもが加害親を求める気持ちは、過去の暴力を肯定しているわけではありません。親として注いでくれた愛情への愛着や、急激な環境の変化に対する不安など、複雑な感情が入り混じった自然な反応です。
子どもの気持ちを否定せずに受け止めることと、安全を脅かす直接の接触を避けることは両立できます。この記事では、子どもの心の背景を整理しながら、危険判断の責任を子どもに背負わせない関わり方や、第三者を介した安全な交流の選択肢についてお伝えします。
子どもが加害親を恋しく思うことは矛盾ではない
避難した後の子どもが加害親を慕う言葉を口にすると、大人は強いショックを受けることがあります。しかし、その感情の背景をひもとくと、子どもの心の中で起きている自然な心理が見えてきます。
暴力への恐怖と親への愛着は心の中に共存する
子どもにとって、家庭内での暴力は恐ろしい体験ですが、加害親と過ごした楽しかった思い出や、優しく接してもらった記憶がすべて消え去るわけではありません。
恐怖を感じる一方で、親としての温もりを求める愛着の感情が心の中に同時に存在することは、ごく自然な心の働きです。大人のように「暴力を振るう人だから嫌いになる」と割り切れるものではなく、相反する感情を抱えたまま揺れている状態であることを、まずは理解しておく必要があります。
突然の生活環境の変化に対する不安の表れ
避難に伴い、住まいや通学先、日々の生活習慣が急激に変化することで、子どもは大きなストレスを抱えています。見慣れた日常や以前の暮らしを恋しく思う気持ちが、「あの人に会いたい」という言葉となって表れていることも少なくありません。
過去の生活を美化しているのではなく、急な変化による不安や心細さを和らげたいというサインである場合もあります。言葉の表面だけを受け取って動揺するのではなく、環境の変化による不安を受け止めてあげることが大切です。
会いたい気持ちと安全な面会を分けて考える
子どもの願いを耳にすると、「会わせてあげなければいけないのではないか」とプレッシャーを感じるかもしれません。しかし、子どもの感情を受け止めることと、実際の面会を実施するかどうかは明確に切り離して考える必要があります。
感情の受容と実際の行動を区別する大切さ
子どもの「会いたい」という言葉に対しては、「そう思うんだね」「寂しいよね」と、その気持ち自体を否定せずに共感することが安心感につながります。
気持ちを受け止めたからといって、すぐに会わせる約束をする必要はありません。「会いたい気持ちはよく分かったよ。でも、今はみんなが安心して暮らすことが一番大切だからね」と伝え、行動の判断は大人が落ち着いて引き受ける姿勢を示します。
保護者と子どもの物理的な安全確保を最優先にする
DV加害者との不用意な接触には、転居先の特定や待ち伏せ、連れ去り、再び暴言や暴力を受けるといった深刻なリスクが伴います。
どれほど子どもが強く望んでいたとしても、安全が十分に保障されない状況で直接会わせることは避けるべきです。心身の安全が守られて初めて子どもの心の回復が進むため、安全確保を最優先にする原則は揺らぐことがありません。
子どもに危険判断の責任を負わせない
面会を行うかどうか、どのような形をとるかという判断を、子ども自身に委ねてはいけません。大人の問題に対する決定責任を子どもに背負わせない配慮が不可欠です。
会うかどうかの最終決定は大人が引き受ける
子どもに「お父さんに会いたい?」「どうする?」と選択を迫る質問を繰り返すと、子どもは重い心理的負担を抱え込みます。
「会いたいと言ったらお母さんを傷つけてしまう」「会いたくないと言ったらお父さんを裏切ってしまう」という忠誠葛藤(親同士の板挟みになる苦しみ)に追い込まれるためです。会う・会わないの判断やその理由は、すべて大人が決定したこととして子どもに伝える姿勢が求められます。
加害親の悪口を伝えず状況を淡々と説明する
子どもに対して加害親の非難や人格否定をぶつけると、子どもは自分自身の半分を否定されたように感じて深く傷ついてしまいます。
なぜ今は直接会えないのかを伝える際は、感情的な言葉を避け、「お互いが落ち着いて安全に暮らせるようになるまで、少し離れて過ごす必要があるんだよ」と、年齢に応じた分かりやすい言葉で淡々と説明することが大切です。
第三者を介した交流や手紙を検討する
子どもの気持ちを尊重しつつ安全を守りたい場合、直接顔を合わせる方法以外にも、つながりを保つ選択肢があります。
面会交流支援機関(第三者機関)の利用
民間や公的な面会交流支援機関を利用すると、元配偶者と直接顔を合わせたり連絡先を知らせたりすることなく、安全な場所と見守りのもとで面会を実施できる場合があります。
事前の綿密な聞き取りや安全管理ルールに基づいて行われるため、直接の接触による危険を回避しながら、子どもの安心を確保する手段として有効です。
手紙や写真のやり取りなど間接的な交流の選択
直接会うことが心身の負担や安全上のリスクになる時期は、手紙やメッセージカード、写真をやり取りする「間接交流」という方法もあります。
やり取りの内容を弁護士や支援機関などの第三者を通じて確認しながら進めることで、居場所の秘密を守りつつ、親の存在を感じられる機会を作ることができます。
まとめ
DV避難後に子どもが加害親に会いたがるのは、親への愛着や生活の変化に対する不安から生じる自然な心の動きであり、決して矛盾した行動ではありません。
対応する際は、子どもの「会いたい」という感情そのものは優しく受け止めつつ、実際に会わせるかどうかの判断は安全を最優先にして大人が引き受けることが重要です。子どもに選択の責任を負わせないよう配慮しながら、直接会うこと以外の安全な選択肢を探っていく姿勢が支えになります。
面会交流の可否や進め方について一人で判断するのが難しい場合は、配偶者暴力相談支援センターや弁護士、家庭裁判所などの専門機関に相談し、安全な枠組みを一緒に整えていきましょう。
参考情報
こども家庭庁 DV・児童虐待対策関連情報
裁判所 面会交流調停・審判の手続き案内
法テラス(日本司法支援センター) DV被害者支援制度
【注意事項】
この記事は、DV避難後の子どもの心理や面会交流に関する一般的な情報を提供するものであり、法的な助言や心理療法に代わるものではありません。個々の事案における安全度や法的状況によって適切な対応は異なりますので、具体的な面会の可否や手続きについては、配偶者暴力相談支援センター、弁護士、家庭裁判所などの専門機関へご相談ください。


