DV(ドメスティック・バイオレンス)やモラハラの環境から避難した後、友人や同僚、新しく出会う人に対して強い警戒心を抱いてしまい、誰も信じられなくなってしまうことがあります。「いつかまた傷つけられるのではないか」「裏があるのではないか」と疑ってしまう自分に対して、人間不信になってしまったと落ち込む方も少なくありません。
しかし、人をすぐに信用できない感覚は、危険から身を守るために心と身体が獲得した正当な自己防衛の働きです。決して心が冷たくなったわけでも、人間関係を築く能力を失ったわけでもありません。
この記事では、被害後に警戒心が続く理由や、無理に相手を信じようとせず安全な距離感を保つ手順、自分の境界線を尊重してくれる相手かどうかを見極める視点を整理します。焦らずに自分のペースを守りながら、安心できる関係性を整えるための判断材料としてお役立てください。
DV被害後に警戒心が続く理由
DVから離れて物理的な安全を確保したにもかかわらず、周囲の人に対して強い恐怖や疑念が消えないのはなぜでしょうか。警戒心が長く続く背景には、過酷な支配下で生き延びるために働いていた防衛機能が関係しています。
命と尊厳を守るために作られた防衛反応
長期間にわたる暴力や暴言、理不尽な人格否定を受けている環境では、常に相手の表情や声のトーンを観察し、危険の兆候を敏感に察知しなければ身を守ることができませんでした。この張り詰めた警戒態勢は、心身が過酷な状況を生き抜くために必要不可欠だった適応の結果です。
安全な場所に移動したからといって、身体に染みついた防衛システムが瞬時に解除されるわけではありません。周囲に対して疑い深くなってしまうのは、二度と同じ被害に遭わないよう、防衛本能が一生懸命に働いている証拠です。
支配関係によって傷つけられた対人信頼感
信頼していたはずの身近なパートナーから裏切られ、傷つけられた経験は、他者全般に対する安心感を大きく損なわせます。「身近な人ほど危険な存在になり得る」という痛烈な体験をしたことで、誰に対しても心を開くことに強いブレーキがかかるのは自然な反応です。
人を信じることに恐怖を覚えるのは、それだけ深い傷を負ったからであり、自分を責める必要はまったくありません。まずは警戒している自分を否定せず、今の状態を受け入れることから始まります。
相手をすぐ信じる必要はないと知る
新しい人間関係を築こうとするとき、「人を信じなければならない」「疑ってばかりでは失礼だ」と自分を追い込んでしまうことがあります。しかし、回復の過程において、相手をすぐに信じる必要はありません。
信用は時間をかけて少しずつ確認していくもの
健全な人間関係における信頼とは、ゼロか百かの極端なものではなく、日常の小さな関わりを積み重ねる中で徐々に育まれていくものです。最初から相手を完全に信じ切る必要はなく、「まだよく分からない人」「様子を見ている段階」として距離を保つことが、自分を守るための大切な防波堤になります。
相手に対して疑念を抱くことは悪いことではなく、慎重に相手を観察するための正当な権利です。信じられない自分を責めるのではなく、信じるまでに十分な時間をかけることを自分に許可してあげてください。
親切な人と安全な人を混同しない視点
DVやモラハラの加害者は、関係の初期において非常に親切で魅力的に振る舞うことが少なくありません。そのため、表面上の優しさや人当たりの良さだけで「この人は安全だ」と判断してしまうと、再び警戒心が刺激されて混乱することがあります。
大切なのは、相手が提示する親切さそのものよりも、時間が経っても態度が一貫しているか、こちらの都合や感情を配慮してくれるかといった、長期的な行動の安定性です。表面的な好意に惑わされず、じっくりと時間をかけて相手の人となりを見極める姿勢が安心につながります。
境界線を尊重する人か小さな場面で確かめる
他者との関係を安全に築いていくためには、自分と相手との間に明確な「境界線(バウンダリー)」を設けることが不可欠です。日常生活の些細な場面を通じて、相手が自分の領域を尊重してくれる人物かどうかを確かめていきます。
小さなお願いや誘いを断ったときの相手の反応を見る
相手が安全な人物かどうかを判断する最も有効な方法の一つは、些細な誘いや提案に対して一度断ってみることです。例えば、「その日は都合が悪い」「今はその話題について話したくない」と伝えたときの相手の反応を観察します。
尊重してくれる相手であれば、不機嫌になったり罪悪感を植え付けようとしたりせず、「分かりました」「また今度にしましょう」と自然に受け入れてくれます。もし断ったことに対して怒り出したり、無理強いしてきたりする場合は、支配的な傾向を持つ人物である可能性があるため、距離を置く警戒のサインとなります。
自分のプライベートな領域に踏み込まれない距離を保つ
連絡の頻度、会う場所、プライベートな過去の話題など、自分が「ここまでは話したくない」「ここには踏み込まれたくない」と感じる境界線を意識します。自分のペースを崩してまで相手に合わせる必要はありません。
少しでも不快感や違和感を覚えたときは、その直感を軽視せず、一歩引いて距離を調整します。自分の心地よい境界線を守り続けることが、他者に振り回されない健全な関係を築く土台となります。
不安が強いときは関係を止める選択を持つ
誰かと関わる中で強い不安や動悸、違和感を覚えたときは、我慢して関係を続ける必要はありません。いつでも関係を一時停止したり、完全に終了させたりする権利があなたにはあります。
関係を深めない・距離を置くことは個人の自由
「せっかく知り合ったのだから仲良くしなければならない」「途中で連絡を減らすのは申し訳ない」と考える必要はありません。対人関係の距離感は、常にあなたが自由に決定できるものです。
少しでも不安を感じたときは、返信の頻度を落とす、会う約束を延期するなど、意図的にスピードを緩めて構いません。自分を守るための距離調整は、相手に対する攻撃ではなく、自己防衛のための正当な行動です。
専門的な相談機関や支援者を活用しながら進める
過去の被害体験による恐怖や孤立感が強く、日常生活に支障が出ている場合は、無理に新しい人間関係を作ろうと焦る必要はありません。まずは安全な環境の中で、専門家の支援を受けながら心身を休めることが最優先です。
配偶者暴力相談支援センターや自治体の相談窓口、心療内科や心理カウンセリングなどの専門機関を利用し、安心できる相談先を確保しておきます。専門職との安全な対話を通じて心の土台を整えていくことが、穏やかな人間関係を再構築するための確かな一歩となります。
まとめ
DV被害の後に人を信用できなくなるのは、命と尊厳を守るために心身が身につけた自然な防衛反応であり、意志の弱さではありません。
新しい関係を築く際も、最初から相手を信じる必要はなく、時間をかけて相手の行動を見極めることが大切です。些細な誘いを断ったときの態度などを観察し、自分の境界線を尊重してくれる相手かどうかを確認していきましょう。
もし不安や違和感を覚えたときは、いつでも関係を止めたり距離を置いたりする権利があります。まずはご自身の安全と安心を最優先にし、専門機関のサポートも活用しながら、焦らずにご自身のペースで回復を進めてください。
参考情報
- 内閣府男女共同参画局 配偶者からの暴力被害者支援情報
- 配偶者暴力相談支援センター
- 法テラス(日本司法支援センター)
【注意事項】
この記事は、DVやモラハラ被害後の心理的な回復プロセスや対人関係に関する一般的な情報を提供するものであり、医学的な診断や個別の法的判断を行うものではありません。心身の不調が深刻な場合や、緊急の保護・支援が必要な場合は、心療内科等の医療機関や最寄りの配偶者暴力相談支援センター、警察などの公的専門機関へご相談ください。


