子どもが泣いていても、動くことができませんでした。
泣き声の響く室内で、ただ息を潜め、相手の顔色を伺い続ける日々。
それが、主人公にとっての日常でした。
何か言えば怒鳴られ、少しでも相手を刺激すれば手を上げられるかもしれないという恐怖がありました。
守るべき小さな命が目の前にあるのに、自分がどう動けばいいのかわからなくなっていたと言います。
結婚して数年、穏やかだったはずの生活は、ある時期を境に一変しました。
なぜ、夫婦の間にこれほどまでの恐怖が生まれてしまったのか。
その背景には、一つの嘘と、受け入れがたい現実が隠されていました。
妊娠中に訪れた小さな違和感
結婚から数年が経ち、待望の新しい命を授かった頃のことです。
平穏だったはずの家庭に、少しずつ異変が混ざり始めました。
当時、主人公は出産に向けて仕事から離れていました。
ある時期から、夫の帰宅時間が不自然に遅くなり始めます。
理由を尋ねても、残業や取引先との飲み会だとはぐらかされるばかりでした。
生活費の話題を出したときの反応も、疑問を深める原因になります。
これから出産や子育てでお金が必要になるにもかかわらず、渡される生活費は月に3万円だけでした。
到底足りる額ではなく、見直しを求めてもまともに取り合ってもらえません。
それまでと違う行動や態度に、もしかすると他の女性にお金を使っているのではないかという考えが頭をよぎりました。
確信はなかったものの、漠然とした不安を抱えながら、体調の優れない妊娠初期を過ごすことになります。
一枚の写真から始まった暴力
友人からの突然の連絡が、疑念を確かなものに変えました。
しかし、それは同時に恐怖の始まりでもありました。
妊娠中期に入った頃、友人から一枚の写真が送られてきます。
そこには、見知らぬ女性と手をつなぎ、親しげに歩く夫の姿が写っていました。
マッチングアプリを利用しているようだという友人の言葉に、それまでの不安がすべて線でつながったように感じたそうです。
その日のうちに、主人公は写真を見せて相手を問い詰めました。
離婚も辞さない覚悟での問いかけでしたが、返ってきたのは事実の否定でした。
口論になる中で、相手の態度は急激に攻撃的なものへと変わっていきます。
自分にとって都合の悪いことを指摘されると、突然手を上げるようになりました。
それを境に、少しでも不機嫌にさせれば怒鳴られ、殴られるという日々が始まります。
お腹の中の命を守るため、主人公は刺激しないよう沈黙を選ぶしかありませんでした。
暴かれた仕事の嘘と密会
出産後も変わらない状況に限界を感じ、外部の支援を求めることになります。
そこで明らかになったのは、信じがたい事実の連続でした。
子どもが生まれてからも、家庭内の空気は張り詰めたままでした。
泣き声に対して「うるさい」と怒鳴り散らし、物を投げることも珍しくありません。
いつか子どもにも危害が及ぶかもしれないという危機感が、専門家へ相談する決め手となりました。
調査会社による確認が行われ、日々の行動が浮き彫りになります。
会社員として働いていると説明していましたが、実際は風俗店で勤務していました。
さらに、退勤時刻の18時を過ぎたあと、特定の女性客と連日のようにホテルへ足を運んでいたのです。
相手の女性は、主人公と子どもの存在を知ったうえでやり取りをしていました。
仕事に行くと言って家を出ていた裏で、このような時間が繰り返されていた事実に、言葉にならなかったと振り返ります。
責任から逃れようとする言葉
証拠が揃い、ついに話し合いの場が設けられました。
しかし、そこで交わされたのは、向き合うことを避けるような言葉ばかりでした。
仕事終わりのタイミングで声をかけられ、第三者を交えた協議が始まります。
生活費が少ない理由を問われても、悪びれる様子はありませんでした。
「3万あったら十分できるやろ」
相手はそう語り、家族を養う責任について独自の考えを主張します。
会社員だと偽り、別の場所で働いていたことについても、どこか他人事のような態度を取り続けます。
なぜ事実を隠していたのかと問われても、納得のいく説明は返ってきません。
「別に言わんでええやん。困ってないやん」
途中で相手の女性も呼ばれ、状況の確認が行われました。
営業時間外の密会について不倫ではないかと問われると、二人の見解は驚くべきものでした。
「お客さんで、その後もケアしろっていう店からの方針や」
そのように相手が弁明する一方で、女性側は少し違った認識を示します。
「私は彼女だから」
妻と彼女は立場が違うだけで、不倫関係には当たらないという主張が続きます。
会話の最中にも感情的になり、立ち上がって威圧しようとする場面もありました。
そこには、自らの行動が家族にどのような痛みを与えたのかを省みる姿勢はありませんでした。
安全な場所へ向けた決断
長い時間を費やした話し合いは、平行線をたどりながらも一つの結論へと向かいます。
主人公の望みは、とにかく今の環境から抜け出すことでした。
相手は当初、離婚の必要性はないと強く主張していました。
暴力を振るった事実についても「どこかでこけただけだ」と認めようとしません。
話し合いの場でも、子どもに対して罵声を浴びせていた録音音声の存在を指摘されると、苛立ちを隠せない様子でした。
それでも、これまでの言動の記録や第三者の介入により、言い逃れができない状況へと追い込まれていきます。
最終的に、相手は渋々ながら離婚の条件を受け入れました。
慰謝料の支払いや、今後の接触を禁じる取り決めにも合意がなされます。
話し合いが終わった直後、主人公は準備していた通り、子どもとともに実家へと身を寄せました。
その後の手続きは、当事者同士ではなく親族や専門家を交えて進められました。
相手の家族も一連の事実を知り、厳しく叱責したうえで、接触禁止を含む公正証書の作成が行われます。
親権を得た主人公は、養育費や慰謝料の手続きを終えます。
相手からの接触を完全に断ち切り、ようやく法的な区切りをつけることができました。
手放すことで取り戻した日常
恐怖と隣り合わせだった日々を抜け出し、現在は実家での生活が続いています。
そこには、以前とは違う静かな時間が流れていました。
元夫と相手の女性は、今回の出来事が周囲にも知れ渡り、ともに職場を去ることになったそうです。
現在は多額の慰謝料を支払うため、生活の立て直しに追われていると聞いています。
主人公の生活環境も大きく変わりました。
夜中にふとした物音で目が覚めることも、怯えながら過ごすこともありません。
同じ子どもの泣き声を聞いても、今の感じ方はまったく違うと言います。
「安心して泣かせてあげられることが、こんなにも穏やかな気持ちになるんだと初めて知りました」
守るべき命のそばで、自分の意思で日々を重ねていく。
かつては、当たり前だったはずの安心感がそこにはあります。
すべてが簡単に消えるわけではありませんが、今はその手でしっかりと、自分たちの生活を守り続けています。

