配偶者からのDVや深刻なモラハラを受けて避難・離婚を進めている最中、相手から「子どもに会わせろ」と強く主張されると、「恐ろしい思いをしてきたのに、子どもを会わせなければいけないのだろうか」と強い不安や葛藤を抱えることでしょう。法律上、面会交流は子どもの健やかな成長のために考慮される権利ですが、何よりも最優先されるべきは「子どもの安全と心身の健康」です。
DVや面前DVが存在する環境では、面会交流を行うこと自体が子どもに深刻な心理的負荷を与えたり、連れ去りや被害の再発といった危険を伴ったりするため、拒否や制限が認められるケースがあります。ただし、単に感情的な理由で拒否しているとみなされると、調停などで不利な扱いを受ける場合もあります。この記事では、子どもの安全を最優先に守るための面会交流の考え方と、家庭裁判所へ客観的に状況を伝えるための準備方法についてわかりやすく解説します。
面会交流より子どもの安全が優先される場面
面会交流は子どもの健やかな成長(子どもの福祉)に資するために行われるものであり、親の権利を満たすためのものではありません。そのため、面会交流を実施することによって子どもの安全が脅かされたり、心身に悪影響が生じたりするおそれがある場合は、面会交流の制限や拒否が認められます。
子どもの福祉と安全確保の最優先
家庭裁判所の実務において、親権や面会交流に関する判断で最も重視される基準は「子どもの福祉」です。配偶者への身体的暴力だけでなく、子どもの目の前で暴力や激しい暴言を振るう「面前DV」は、児童虐待(心理的虐待)に該当します。加害者と接することで子どもが強い恐怖を感じたり、過去のトラウマを思い起こして情緒が著しく不安定になったりする場合は、面会交流を行うことが「子どもの福祉に反する」と判断され、制限される重要な根拠となります。
面会交流が制限・拒否される具体的な要素
面会交流の実施を拒否または制限すべきとされる主な要素には、以下のような事情が挙げられます。
- 子ども自身に対する直接的な暴力や暴言、虐待の事実がある場合
- 面前DVにより、子どもが著しい恐怖心や強い心理的ストレスを抱えている場合
- 面会交流の機会を利用して、加害者が子どもを連れ去る危険性が高い場合
- 子どもを引き渡す際や連絡を取り合う際に、同居親への暴力・接近・連絡手続上の脅迫が懸念される場合
- 子どもの年齢や意思に照らし、自発的な拒否感が著しく強固である場合
これらの事情が存在するときは、無条件での面会交流は認められず、制限または停止の措置が検討されます。
子どもの恐怖や拒否を具体的に記録する
面会交流を拒否・制限するためには、親側の感情的な拒否感ではなく、「子ども自身にどのような影響が出ているか」を客観的な事実として整理して提示することが極めて重要です。
日常生活に表れる恐怖やストレスのサイン
子どもは言葉で自分の恐怖を正確に表現できないことが多いため、日常の行動や体調の変化としてサインが現れることが一般的です。相手の話題が出たときや、面会交流の話を耳にしたときの子どもの変化を慎重に観察してください。
具体的には、夜泣きやおねしょの再発(退行現象)、原因不明の発熱や腹痛、登校・登園のしぶり、過度に静かになる、あるいは急に攻撃的になるといった情緒の変化が挙げられます。これらの様子を逃さず観察することが大切です。
第三者に伝わる具体的な事実の記録方法
観察した内容は、日付・時間・具体的な出来事や発言をセットにして「面会観察日記」やメモとして細かく残しておきます。「子どもが嫌がっていた」という抽象的な感想だけでは、第三者に事態の深刻さが伝わりにくくなります。
「〇月〇日、相手から連絡が来た話をしたところ、子どもが急に無口になり部屋の隅で震え出した」「〇月〇日、面会の話題のあと夜中に3回うなされて飛び起きた」というように、どのようなきっかけで、子どもがどのような言動をとったのかを5W1Hで記録してください。また、受診した小児科や児童精神科の診断書、園や学校での様子の変化に関する連絡帳の控えなども、非常に強力な客観的証拠となります。
第三者機関・間接交流・付き添いを検討する
DV被害が存在するケースでは、「一切会わせない(完全拒否)」という選択肢だけでなく、段階的な制限や第三者を介した方法を検討することが、子どもの安全を守る現実的な解決策となる場合があります。
面会交流支援機関(第三者機関)の活用
家庭裁判所の手続きにおいて、当事者同士での連絡や子どもの引き渡しが危険であると判断された場合、面会交流の支援を行う第三者機関(FPICなど)の利用が検討されることがあります。専門スタッフが立ち会い、安全な場所で面会の受け渡しを行うため、加害者と直接顔を合わせるリスクを回避できます。ただし、第三者機関を利用する場合であっても、子ども自身に強いトラウマがあり精神的な負担が大きすぎる場合は、支援機関の利用自体が適さないと判断されることもあります。
写真や手紙による間接交流と付き添い面会
直接顔を合わせる面会(直接交流)が困難な場合、安全に配慮した代替案として「間接交流」を提示する方法があります。間接交流とは、定期的に子どもの写真や手紙を送付したり、プレゼントのやり取りを行ったりする形式です。
子どもの安全と精神的な安定を確保しつつ、加害者との直接的な接触を完全に遮断できるため、安全面でのリスクを大幅に低減できます。また、親族や専門家など信頼できる第三者が付き添う条件を設けるなど、子どもの心理状態や危険度に応じた段階的な方法を整理しておくことが有効です。
感情的な拒否と受け取られない説明を準備する
家庭裁判所の調停や審判では、「同居親が離婚相手を嫌っているから子どもを会わせたくないのではないか」という「意図的な離間工作」を疑われないよう、慎重に主張を組み立てる必要があります。
「元配偶者への嫌悪」と「子どもの利益」を整理する
裁判所に対して主張を行う際は、自分自身の元配偶者に対する怒りや恐怖と、子どもにとっての危険性や悪影響を明確に分けて説明することが求められます。「私が相手を許せないから会わせない」という表現になってしまうと、親の都合で子どもから親を奪おうとしていると受け取られかねません。
焦点を常に「子どもの安全」と「子どもの心理的安定」に合わせ、「暴力や支配の影響により、現状で面会を実施することは子どもの健全な成長を害する」という論点で説明を組み立ててください。
裁判所や調停で伝わる冷静な説明手順
家庭裁判所の調停委員や家庭裁判所調査官に対して説明する際は、以下のステップで冷静に伝えるよう準備します。
- 過去に発生したDVや面前DVの具体的事実(時期・回数・態様・警察相談履歴など)を示す
- その結果として、子どもに現在どのような悪影響や恐怖症状が出ているか(記録や診断書)を提示する
- 現段階で面会を行うことによる具体的なリスク(子どもの恐怖、連れ去り懸念、連絡時の再被害など)を説明する
- 安全が確保されない限り直接面会は困難であること、あるいは安全に配慮した条件(間接交流等)の検討が必要であることを伝える
感情的にならず、客観的な事実と記録に基づいた説明を行うことで、裁判所側も子どもの安全を優先した判断を下しやすくなります。
まとめ
DVやモラハラが存在する環境において、面会交流より優先されるべきは子どもの安全と心身の健康です。面前DVを含め、家庭内の暴力が子どもに与えた影響を正しく評価し、無理な面会によって子どもが更なる傷を負わないよう保護することが最優先されます。
相手からの面会要求に対しては、一人で抱え込んで直接交渉しようとせず、子どもの状態を客観的に記録しながら、弁護士や配偶者暴力相談支援センター、警察などの専門機関へ相談してください。公的な手続きや第三者機関の手を借りながら、子どもの安全と安心した生活を守るための選択を進めていきましょう。
参考情報
- 裁判所「面会交流調停の手続き」
- こども家庭庁「児童虐待防止対策(面前DVについて)」
- 警察庁「配偶者からの暴力(DV)被害への対応」
- 法テラス(日本司法支援センター)
【注意事項】
この記事は一般的な情報を提供するものであり、個別の法的・危機管理上の助言を行うものではありません。DV被害の状況や子どもの心身の状態によって、面会交流に関する適切な対応や判断は異なります。具体的な手続きや安全確保については、弁護士などの専門家や公的相談窓口へ直接ご相談ください。


