DVやモラハラの被害から逃れるために家を出た後、手元の資金が底をつき、これからの生活に強い不安を抱える方は少なくありません。「自分から家を出たのだから生活費はもらえないのではないか」「連絡を取ると居場所がばれてしまうのではないか」と一人で悩んでしまうこともあるでしょう。
法律上、別居中であっても夫婦には互いの生活を支え合う義務があり、DV避難であっても婚姻費用(生活費)を請求する権利は正当に認められます。また、相手と直接連絡を取ることなく、安全に手続きを進める仕組みも整っています。
この記事では、DV避難後に婚姻費用を請求できる理由や、相手の収入・生活費の把握方法、直接交渉を避けて裁判所を通す手順、支払いが始まるまでの公的支援制度について解説します。安全を確保しながら生活基盤を整えるための判断材料としてお役立てください。
DV避難後でも婚姻費用を請求できる理由
「自分から家を出た側は生活費を請求できない」と思い込んでしまう被害者の方は多くいますが、法律上の考え方は異なります。暴力を避けるための別居は正当な理由として扱われます。
夫婦間の生活保持義務と法律上の権利
法律(民法760条)では、夫婦は婚姻から生じる費用を分担する義務(生活保持義務)を負っています。これは、別居中であっても離婚が成立するまでは継続する義務です。
相手と同等の生活水準を維持できるよう生活費を分担することが求められており、専業主婦(主夫)や収入が少ない側であっても当然に請求できる権利です。別居によって生活拠点が分かれたとしても、夫婦である以上はこの分担義務が消えることはありません。
DVやモラハラによる避難は「正当な別居理由」になる
一方的な理由での別居(正当な理由のない同居義務違反)の場合、婚姻費用の請求が制限されるケースもありますが、DVやモラハラからの避難は完全に「正当な理由」にあたります。
暴力を受けて命や心身の安全を守るために別居を余儀なくされた事実がある以上、家を出た責任を問われて生活費を拒否される法的な根拠はありません。暴力から逃れるための別居は権利の濫用にはならず、生活費の請求は正当な権利行使として保護されます。
「自分から家を出たから請求できない」という誤解
加害者側から「お前が勝手に出て行ったのだから一円も払わない」と言われることがあります。しかし、これは加害者側の主観的な主張に過ぎず、法的な判断とは異なります。
相手の暴言や脅しに惑わされず、正当な権利として生活費を請求できることを知っておくことが大切です。相手の言い分をそのまま受け入れて生活困窮に陥る必要はありません。
相手の収入と自分の生活費を把握する
婚姻費用の請求を具体的に進めるためには、請求額の基準となる双方の収入状況や、現在かかっている生活費を把握しておく必要があります。
裁判所の「算定表」で目安額を確認する
婚姻費用の金額は、裁判所が公表している「婚姻費用算定表」をベースに算出されます。これは双方の年収、子どもの人数や年齢を当てはめることで、毎月分担すべき標準的な金額を割り出す仕組みです。
まずは相手と自分の概算の年収をもとに、どの程度の金額が請求できるのか目安を把握します。裁判所のウェブサイトで公開されている表を確認することで、客観的な基準額を知ることができます。
相手の収入を示す資料(源泉徴収票・給与明細など)
正確な金額を算出するためには、相手の収入を証明する資料が必要になります。源泉徴収票や確定申告書、給与明細のコピーなどが手元にあれば有力な資料となります。
避難時に持ち出せなかった場合でも、相手の勤務先や職種、おおよその役職などの情報が分かっていれば、裁判所の手続きを通じて開示を求めることが可能です。手元に書類がないからといって請求そのものを諦める必要はありません。
避難先での毎月の支出と子どもの養育費用の整理
生活再建に向けて、毎月どのような費用がかかっているかを書き出しておくことも重要です。
家賃、光熱費、食費、通信費などの基本生活費に加え、子どもの学用品費や医療費など、具体的にいくら不足しているのかを把握しておくことで、今後の生活設計が立てやすくなります。実際の支出状況を整理しておくことは、手続きの場でも現状を正確に伝える助けになります。
直接交渉せず婚姻費用分担調停を利用する
DV・モラハラの相手に対して、自分で連絡を取って生活費を要求することは極めて危険です。安全を最優先にし、第三者や公的機関を介した手続きを選択します。
相手と直接連絡を取るリスクと居場所特定の防止
加害者に直接連絡を入れると、暴言を浴びせられたり、居場所を突き止めるために待ち伏せされたりする危険があります。
電話やメール、メッセージアプリなどでの直接交渉は避け、相手に新居の住所や連絡先が伝わらないよう厳重に注意しなければなりません。直接のやり取りは精神的な消耗を招くだけでなく、身の安全を脅かす原因になります。
家庭裁判所の「婚姻費用分担請求調停」を申し立てる
安全に生活費を取り決めるための最も確実な手段は、家庭裁判所へ「婚姻費用の分担に関する調停」を申し立てることです。
調停では調停委員が間に入り、双方から個別に話を聞いて話し合いを進めるため、相手と直接顔を合わせたり連絡を取り合ったりする必要がありません。また、調停を申し立てた月まで遡って婚姻費用が認められる傾向があるため、できるだけ早い申立てが推奨されます。
裁判所での秘匿措置と代理人弁護士の活用
裁判所を利用する際は、申立書や提出書類に記載する現住所を相手に開示しないよう「非開示の申出(秘匿措置)」を行うことが可能です。
調停期日においても、相手と顔を合わせないよう待合室を別にする、来所時間をずらすなどの安全配慮を裁判所に求めることができます。さらに弁護士に依頼すれば、裁判所とのやり取りや相手方との連絡をすべて代理人に一任できるため、精神的負担を大幅に軽減できます。
支払い開始までの生活を支える制度を確認する
調停を申し立てても、実際の支払いが合意に至るまでには数か月の時間がかかることがあります。その間の生活費を確保するための緊急的な制度や支援策を確認しておきましょう。
婚姻費用分担の「審判前の保全処分」
相手が生活費の支払いを完全に拒否し、手元の資金が尽きて生活が成り立たないような緊急時には、調停と並行して「審判前の保全処分」を申し立てることができます。
これは調停が成立する前であっても、裁判所の判断によって相手に暫定的な生活費の支払いを命じる仮払いの手続きです。緊急性が認められれば、本手続きの終了を待たずに生活費の給付を受けられる可能性があります。
自治体の緊急一時支援や児童手当の受取先変更
生活費が不足している期間は、公的な福祉制度を活用します。子どもと一緒に避難している場合は、自治体の窓口で手続きを行い、児童手当の受給者を被害者自身に変更して避難先で直接受け取れるようにします。
また、社会福祉協議会の緊急小口資金の貸付や、自治体の緊急一時支援金などが利用できる場合もあります。利用できる地域の支援策について、役所の福祉窓口で確認してみることが大切です。
経済的困窮時の生活保護や一時的な公的扶助
親族からの援助も難しく、手元の所持金が限界を迎えた場合は、生活保護の申請も選択肢に入ります。
DV避難者であることを福祉事務所に伝えれば、加害者への扶養照会(相手への問い合わせ)を行わずに保護を受給できる特例措置が適用されます。まずは生活を維持することを最優先に考え、躊躇せず窓口へ相談してください。
まとめ
DVやモラハラから避難した後の生活費確保は、これからの安全な生活を支える極めて重要な問題です。請求を進める際は、以下の点を確認して慎重に行動してください。
- DV避難による別居であっても、婚姻費用(生活費)を請求する権利は正当に認められる
- 「勝手に出て行ったから払わない」という相手の主張に法的な正当性はない
- 婚姻費用の目安は裁判所の算定表で確認し、相手の収入資料を整理する
- 直接交渉は絶対に避け、家庭裁判所の婚姻費用分担調停や弁護士を利用する
- 住所秘匿措置を必ず申請し、裁判所でも相手と接触しない安全対策を取る
- 支払いが始まるまでの間は、保全処分や児童手当の変更、生活保護などの公的支援を活用する
安全な生活基盤を整えることは、心身を回復させ、新しい一歩を踏み出すための土台となります。一人で抱え込まず、配偶者暴力相談支援センターや法テラス、弁護士などの専門機関へ相談し、安全を確保しながら生活費を確保していきましょう。
参考情報
裁判所 婚姻費用の分担請求調停
裁判所 養育費・婚姻費用算定表
内閣府男女共同参画局 配偶者からの暴力被害者支援情報
厚生労働省 生活保護制度におけるDV被害者への配慮について
法テラス(日本司法支援センター) DV・ストーカー被害に関する法制度案内
注意事項
この記事はDV・モラハラ避難後の婚姻費用請求に関する一般的な法制度や支援策についてまとめたものであり、個別の事案に対する法的な助言を行うものではありません。具体的な請求金額や手続き、安全確保の方法は個々の状況によって異なりますので、弁護士や家庭裁判所、配偶者暴力相談支援センターなどの専門機関へご相談ください。


