配偶者からの身体的暴力や激しい怒鳴り声、精神的な支配(モラハラ)にさらされているとき、多くの方が「自分さえ耐えれば」「子どもには直接手を出していないから大丈夫」と自分自身に言い聞かせ、必死に家庭を維持しようと奮闘されます。
しかし、大人が思っている以上に、子どもは家庭内の雰囲気や空気の変化を鋭く察知しています。子どもの前で配偶者に暴力を振るったり、暴言を吐いたりする行為は「面前DV(めんぜんディーブイ)」と呼ばれ、児童虐待防止法においても明確に「心理的虐待」と位置づけられています。
直接的な暴力に向けられた拳でなくても、恐怖と緊張に満ちた環境の中に置かれること自体が、発達途上にある子どもの心と身体に小さくない影を落とします。
この記事では、面前DVを含むDV環境が子どもに与える深い影響をはじめ、子どもが見せやすい心身のサイン、保護者として子どもに伝えるべき言葉、そして避難後に子どもの安心を取り戻すための具体的なケア方法について詳しく解説します。自分自身と子どもの安全を守り、健やかな未来へ歩み出すための判断材料としてお役立てください。
子どもが直接暴力を受けていなくても影響はある
「子どもを叩いたり虐待したりしているわけではないから、直接的な被害はないはずだ」と考えてしまうことがあります。しかし、子どもにとって家庭は本来、世界で最も安全で安心できる場所(安全基地)でなければなりません。その家庭が恐怖や不穏な空気に包まれていること自体が、子どもの成長に大きな影響を与えます。
家庭内の緊張を常に感じ取る
子どもは、言葉の意味をすべて理解していなくても、大人の表情、声のトーン、部屋の重苦しい空気感を即座に感じ取ります。
日常的に怒鳴り声が響いたり、いつ爆発するか分からない緊張感が漂ったりしている家庭では、子どもは常に「次に何が起きるのだろう」と強い恐怖と警戒心を抱いて過ごすことになります。このように脳と心が一過性ではない慢性的ストレスに晒され続けると、安心感や自己肯定感が育ちにくくなり、安心した人間関係を築くための感覚が著しく脅かされてしまいます。
暴力的な関係を普通だと学ぶ可能性
子どもは家庭という小さな社会の中で、人間同士のコミュニケーションや問題解決の方法を学んでいきます。
日常的に一方がもう一方を力や暴言で支配し、従わせる関係性を目撃して育つと、「人間関係とは力のある者が威圧して思い通りにするものだ」「不満があれば怒鳴ったり暴力を振るったりしてもよい」あるいは「不当に傷つけられても自分さえ我慢すればよい」といった偏った関係性を「当たり前のコミュニケーション」として内面化してしまうリスクが生じます。これが将来的な人間関係や配偶者との関係性にも影響を及ぼす可能性があります。
子どもに表れやすいサイン
DV環境下に置かれた子どもは、抱えきれない強い恐怖や不安を言葉で上手に表現することができません。そのため、行動や体調、発達の面でさまざまな「SOSのサイン」を出してSOSを知らせようとします。年齢や性格によって表れ方は異なりますが、代表的な変化を整理します。
不安・夜泣き・退行
心の許容量を超えるストレスを受けると、子どもの不安感は心身の不調や発達の戻り(退行現象)として現れます。
夜中に何度も激しく泣き叫ぶ、一人で寝ることができなくなる、以前はできていたおねしょ(遺尿)が再発する、指しゃぶりや爪噛みがやめられない、親から一時も離れようとしない(分離不安)といった行動が見られます。また、頭痛や腹痛、吐き気などの身体的症状としてストレスが表れるケースも頻繁に起こります。
攻撃的な行動
内に溜まった恐怖やストレスをコントロールできず、外部へ攻撃性として吐き出してしまうパターンです。
些細なことで激しくかんしゃくを起こす、兄弟や友達に対して乱暴な言葉を使ったり手を出したりする、物を投げつけたり壊したりするといった行動が見られます。これは「子ども自身が悪くなった」のではなく、恐怖や苛立ちを表現するすべを知らず、混乱とSOSを発信している状態であることを理解する必要があります。
過剰に良い子になる
一見すると落ち着いているように見えても、実は最も心の負担が重い状態として「過剰に良い子になる」というサインがあります。
「自分が良い子にしていればパパとママが喧嘩しないかもしれない」「これ以上お母さん(お父さん)を困らせてはいけない」と幼い心で判断し、自分の欲求や感情を完全に押し殺して大人の顔色を伺い、親を気遣うような振る舞いをします。自分の子どもらしさを封じ込めて親の保護者役のようになる(ヤングケアラー的傾向)状態は、成長後に深刻な自己否定感につながるおそれがあります。
子どもに伝えるべきこと
加害者から離れて安全な場所へ移動した際、あるいは日々の混乱の中で、親が子どもに対してどのような言葉をかけるかは、子どもの心を回復させるうえで決定的な意味を持ちます。子どもが自分自身を責めることなく、安心して前を向くために伝えるべき2つの重要なメッセージがあります。
暴力は子どもの責任ではない
DV家庭で育った子どもは、「僕が片付けをしなかったからパパが怒ったんだ」「私が泣いたからお母さんが叩かれたんだ」と、家庭内の暴力や不和の原因を自分自身のせいだと捉え、深い罪悪感を抱きがちです。
子どもに対しては、「家庭の中で起きていたことや暴力は、大人の問題であり、あなたが悪いわけでは絶対にない」という事実を、わかりやすい言葉で繰り返し伝える必要があります。「あなたが良い子だから、悪い子だからということは関係ない。あなたに責任は一切ない」と伝え続けることで、子どもは背負わされた重荷を降ろすことができます。
安全な大人が守ると伝える
恐怖の中にいた子どもにとって、最も必要なのは「もう暴力に怯える必要はない」という確かな安心感です。
「これからは、あなたを恐怖に晒すようなことはさせない」「あなたが安全に、安心して暮らせる場所を作ったよ」と明確な約束を伝えてください。また、親一人だけで守るのではなく、警察や弁護士、相談員、学校の先生など、「世の中にはあなたを守ってくれる安全な大人がたくさんいる」という事実を伝えることで、子どもの孤立感や恐怖心を和らげることができます。
避難後の子どもを支える方法
加害者から避難し、身体的な安全が確保された後も、子どもの心のケアと生活の再建は続いていきます。環境の急激な変化に直面する子どもを、日常生活の中でどのように支えていけばよいのか、具体的なアプローチを解説します。
生活の見通しを伝える
避難や別居に伴い、住む場所、通う保育園・学校、日々のルーティンが変わると、子どもは「これからどうなってしまうのだろう」と強い不透明感と不安を抱きます。
「明日はどこへ行くのか」「これからどこで暮らすのか」「学校はどうなるのか」といった生活の見通しを、子どもの年齢に応じた言葉でできる限り具体的に伝えてあげてください。予定や見通しが分かることで、子どもは自分の生活のコントロール感を取り戻し、精神的に落ち着きを取り戻しやすくなります。
学校や支援機関と連携する
家庭内でのDV被害や避難の事実について、子どもの通う保育園・幼稚園、学校(担任、スクールカウンセラーなど)へ適切に共有し、連携体制を構築することが重要です。
学校側に事情を伝えることで、集団生活の中で見られる緊張や行動の変化に配慮してもらえるだけでなく、万が一加害者が学校へ押しかけてきた際の登下校の安全管理や引き渡し制限などの防犯対策を講じることができます。また、配偶者暴力相談支援センターや児童相談所、専門の臨床心理士などの公的支援を継続的に利用し、多角的な目で見守る環境を整えましょう。
加害者への気持ちを否定しない
子どもにとって、加害者である配偶者は「暴力を振るう恐ろしい存在」であると同時に、「大好きだったお父さん(お母さん)」という側面を持っています。
子どもが元配偶者を恋しがったり、「会いたい」「寂しい」と口にしたりしたとき、怒りや悲しさから「あんなひどい人のことを思ってはいけない」「もう二度と会えない」と子どもの感情を否定したり叱責したりすることは避けなければなりません。愛着と恐怖の間で揺れ動く子どもの複雑な心境をそのまま受容し、「そう思うのも無理はないよね」「寂しい気持ちがあるんだね」と気持ちを受け止めてあげることが、子どもの情緒の安定につながります。
まとめ
DV家庭や面前DVが存在する環境で育った子どもは、直接的な暴力の有無にかかわらず、心身に深く大きなストレスを受けています。夜泣きや感情の爆発、あるいは過剰に良い子を演じるといった変化は、子どもが発している必死のSOSサインです。
大切なのは、「自分が子どもに苦しい思いをさせてしまった」と自責の念だけで自分自身を責め立てないことです。
あなたが危険を認識し、子どもとともに安全な環境へ避難しようと踏み出した一歩こそが、子どもを暴力の連鎖から守る最大の愛であり保護行動です。
「暴力はあなたのせいではない」「安全な環境で必ず守る」という言葉を繰り返し伝え、学校や専門の支援機関の力を借りながら、少しずつ安心できる日常を取り戻していきましょう。一人で抱え込まず、専門の相談窓口を頼ってください。フタリエは、あなたと子どもが恐怖から解放され、心からの笑顔を取り戻して歩んでいけるよう応援しています。
参考情報
・厚生労働省「児童虐待の定義と現状(面前DVについて)」
・内閣府男女共同参画局「配偶者からの暴力被害者支援と子どもの保護」
・警察庁「児童虐待防止対策と配偶者暴力対策の連携」
・こども家庭庁「子どもの心のケアと相談窓口」
※この記事は一般的な情報を提供するもので、個別の事情に対する医療・法律・福祉上の判断を行うものではありません。具体的な対応については、配偶者暴力相談支援センター、児童相談所、医療機関、弁護士などへご相談ください。




