DV被害で警察へ相談するとき被害届と相談記録はどう違う?目的と手続きを整理

警察署の相談スペースで順番を待ちながら、不安を抱えつつ今後の対応を考える女性のモノクロ線画イラスト

配偶者からの暴力や脅迫に悩み、警察への相談を考えたとき、「警察に行くとすぐに事件化されて相手が逮捕されてしまうのか」「まずは話を聞いてもらい、記録だけを残すことはできるのか」と不安になる方は少なくありません。

警察に関わる手続きには、加害者の刑事処罰を求める「被害届の提出」と、身の安全確保や今後の対応を目的とした「警察相談(相談記録の作成)」という異なる二つの道があります。現在の危険度やご自身の希望に合わせて適切な方法を選ぶことが、安全を守りながら生活を立て直すための第一歩です。

この記事では、警察相談と被害届の目的の違い、被害届提出時に求められる情報、相談記録が後の保護命令や支援措置にどう役立つのかを整理しました。危険が差し迫ったときの緊急対応も含め、落ち着いて次の行動を判断するための材料としてお役立てください。

目次

警察相談と被害届の目的の違い

警察へ足を運ぶ際、最初に理解しておきたいのは「事件として捜査を求めるのか」それとも「危険を防ぐための安全対策を求めるのか」という目的の違いです。

加害者の処罰を求める被害届

被害届は、犯罪の被害に遭った事実を警察に申告し、捜査機関に加害者の処罰を求めるための書類です。

配偶者からの暴行によって怪我を負わされた場合(傷害罪・暴行罪)や、生命・身体に危害を加えると脅された場合(脅迫罪)などに提出を検討します。被害届が受理されると、警察は事件として正式に捜査を開始し、証拠の収集や加害者の取り調べ、場合によっては逮捕などの刑事手続きを進めることになります。

加害者に対して刑事責任を追及したいという強い意思がある場合に選択される手続きです。

被害者の安全確保を第一とする警察相談

警察相談は、今まさに事件化して処罰を求める段階ではないものの、配偶者からの暴力やモラハラに苦しんでおり、身の安全を守りたいという場合に利用する制度です。

警察署の生活安全課などで専門の担当官が話を聞き、警察の内部システムに「相談等処理票(相談記録)」として詳細な記録を残します。

相談を行うことで、警察から加害者に対して直接警告や指導を行ってもらったり、自宅周辺のパトロールを強化してもらったり、緊急時に通報した際に素早く状況を把握して駆けつけてもらえる体制を整えることができます。すぐに処罰を望まない場合でも、公的な記録を残す手段として極めて重要です。

どちらを選ぶべきか迷ったときの判断基準

被害届を出すか、まずは相談記録にとどめるかは、被害の深刻度と今後の生活設計によって判断が分かれます。

加害者からの激しい身体的暴力が続いており、直ちに隔離や処罰が必要な場合は被害届の提出が視野に入ります。

一方で、まだ別居の準備が整っていない段階で被害届を出すと、加害者が逆上してさらなる危険を招くリスクもあります。安全な避難先が確保できるまでは相談記録を残すにとどめ、避難完了後に改めて被害届を検討するという段階的な進め方も現実的な選択肢となります。

被害届を提出するときに求められる情報

被害届を正式に提出して捜査を進めてもらうためには、犯罪事実を客観的に裏付ける具体的な情報と証拠が必要になります。

暴力や脅迫が発生した日時の特定

被害届を作成する際は、「いつ、どこで、どのような行為を受けたのか」を正確に特定することが求められます。

曖昧に「普段から暴力を受けている」と伝えるだけでは、警察が犯罪事実を特定して書類を作成することが難しくなります。

数月数日の何時頃に、自宅のどの部屋で、どのような体勢からどの部位を殴られたのか、どのような言葉で脅されたのかといった具体的な経緯を時系列で整理して伝える必要があります。

医師の診断書やけが・被害の客観的証拠

身体に対する暴力があった場合、最も強力な証拠となるのが医師の作成した診断書です。

怪我をした直後に病院(整形外科や救急外来など)を受診し、全治何日・どのような負傷(打撲、骨折、擦過傷など)であるかを明記した診断書を取得します。受診の際には、医師に対して「配偶者から暴力を受けた」という経緯を伝えておくことが大切です。

あわせて、負傷部位のカラー写真、壊された家具や破られた衣服の写真、暴言が録音されたデータや脅迫メッセージの画面保存なども有力な証拠資料となります。

事情聴取と供述調書の作成に応じる準備

被害届を提出する際は、単に書類を一枚書いて終わりではなく、警察官による詳細な事情聴取を受けることになります。

これまでの婚姻生活の経緯、暴力が始まったきっかけ、被害当時の詳しい状況、相手への処罰感情などを数時間にわたって聞き取られ、警察官が「被害者供述調書」を作成します。

過去の辛い記憶を思い出しながら話す作業は心身に大きな負担がかかるため、体調を整え、信頼できる支援者や弁護士に付き添ってもらうことも検討してください。

相談記録を残すことが後の手続きに役立つ理由

警察相談を行った際に作成される「相談記録」は、その場での安全対策だけでなく、その後に進める法的手続きや生活再建の場面でも大きな力を持ちます。

DV保護命令の申立て要件を満たす証明

裁判所に対して加害者の接近や連絡を禁止させる「DV保護命令」を申し立てる際、配偶者暴力防止法(DV防止法)に基づき、事前に警察または配偶者暴力相談支援センターへ相談した事実があることが原則的な要件とされています。

警察に相談記録が残っていれば、裁判所への申立書に相談日時や対応した警察署・担当部署を記載することで、スムーズに審理を進めることができます。事前相談の記録がない場合は公証役場で別途費用と時間をかけて宣誓供述書を作成しなければならなくなるため、事前の警察相談は非常に有益です。

住民票の閲覧制限(DV等支援措置)の円滑な申請

加害者から逃れて新しい生活を始める際、自治体の窓口で「住民票等の閲覧制限(DV等支援措置)」を申請します。

この制度を利用することで、加害者が住民票や戸籍の附票を取得して新住所を突き止めることを防ぐことができます。

自治体が閲覧制限を認めるか判断する際、警察署からの意見書の提出や確認が行われます。すでに警察へDV相談の実績があれば、窓口での確認が迅速に進み、安全な転居手続きを確実に行うことができます。

万が一の緊急通報時に迅速な出動を可能にする体制

警察に相談実績があると、警察内のデータベースに被害者情報と加害者情報、これまでの経緯が登録されます。

自宅の電話番号や自身のスマートフォン番号を登録しておくことで、万が一危険が迫って110番通報をした際、通信指令室の画面に通報者のDV被害情報が即座に表示されます。

詳しい説明を話す余裕がない緊迫した状態であっても、警察側が「DV事案の危険な通報」と瞬時に把握し、最寄りのパトカーを急行させてもらえる体制が整います。

緊急時は記録より110番通報を優先する

警察署へ相談に行くことや証拠を整理することは大切ですが、現在進行形で身体や生命に危険が及んでいるときは、書類や相談のことを考える必要はありません。

生命や身体に危険が迫っている場合の110番

配偶者が暴れ出したり、物を投げつけられたり、刃物を持ち出したり、「殺してやる」などの言葉で脅されているときは、迷うことなくその場で110番通報を行ってください。

警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署の代表電話ではなく、緊急ダイヤルの110番を利用することが鉄則です。110番通報は通話がつながった時点で位置情報の特定が開始され、最も優先度の高い緊急事案として警察官が現場へ急行します。

緊急通報時の伝え方と避難行動

110番通報がつながったら、まず「事件です。夫(妻)から暴力を受けています」と告げ、自宅の住所を伝えます。

相手に気づかれて電話を切られてしまう恐れがある場合でも、通話をつなげたまま受話器やスマートフォンを放置してください。警察の通信指令室では、受話器越しに聞こえる叫び声や物音から緊急性を察知し、警察官を向かわせる判断を行います。

通報後は、鍵のかかる部屋へ逃げ込むか、可能であれば子どもを連れて靴のまま外へ飛び出し、近隣の住宅やコンビニエンスストアなど人がいる安全な場所へ避難してください。

警察官の臨場後に進める安全確保と保護

通報を受けて警察官が現場に到着したら、まずはご自身とお子さんの安全を最優先に保護してもらいます。

警察官に対して、これまでに受けた暴力の経緯や、現在の恐怖、相手と同じ空間に居続けることが危険である旨をはっきりと伝えてください。

状況に応じて、警察車両で警察署や一時保護施設(シェルター)へ避難させてもらうことや、加害者に対してその場から退去するよう厳重に警告を行ってもらうことが可能です。

まとめ

DV被害における警察へのアプローチには、加害者の刑事責任を追及する「被害届」と、身の安全と公的支援の基盤を固める「相談記録」の二つの役割があります。

すぐに事件化することが難しい場合であっても、警察へ相談に訪れて記録を残しておくことは、後のDV保護命令の申立てや住民票の閲覧制限、緊急時の迅速な出動体制につながる非常に重要な行動です。

まずはご自身の置かれている状況と安全を最優先に考え、手元にある記録を整理しながら、警察の生活安全課や専門の相談窓口へ足を運んでみてください。そして、今まさに危険が差し迫っているときは、ためらわずに110番通報を行い、命を守る行動を最優先に取ってください。

参考情報

  • 警察庁「配偶者からの暴力等に対する対応」
  • 警察庁「警察相談専用電話 #9110」
  • 内閣府男女共同参画局「DV相談ナビ・DV相談プラス」
  • 裁判所「配偶者からの暴力に関する保護命令申立て」

【注意事項】
この記事は、警察への相談および被害届に関する一般的な手続きや実務の流れを整理したものであり、個別の事案に対する法的な助言や捜査結果を保証するものではありません。配偶者からの暴力や脅迫により身体や生命に危険が及んでいるときは、直ちに110番通報を行うか、最寄りの警察署、配偶者暴力相談支援センター、または弁護士へご相談ください。警察や関係機関の対応は、個別の危険度や状況に応じて判断されます。

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この記事を書いた人

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