DVやモラハラを行う配偶者と離婚を決意したとき、あるいは別居・避難を進める中で、多くの方が直面するのが「養育費」に関する不安です。「子どもを育てるためにお金は必要だけれど、元配偶者と連絡を取るのが怖い」「養育費を口実に居場所を探されたり、暴言や嫌がらせを受けたりするのではないか」と思い悩み、請求自体を諦めてしまいそうになる方も少なくありません。
DVやモラハラが存在した関係性において、直接の話し合いや連絡を継続することは、心身に強い恐怖とストレスを与えるだけでなく、安全を脅かす大きなリスクとなります。
しかし、子どもの健やかな成長を支える養育費を受け取ることと、加害配偶者と直接関わり続けることはイコールではありません。適切な手続きや制度を活用すれば、直接の接触を完全に遮断した状態のまま、安全かつ確実に養育費を取り決めて受け取ることが可能です。
この記事では、元配偶者と関わらずに養育費を受け取る仕組みや具体例、不払いに備える公的な取り決め方、そして「養育費を払うのだから会わせろ」と面会を強要された際の適切な対処法まで詳しく解説します。自分と子どもの安全を最優先にしながら、正当な権利を守るための判断材料としてお役立てください。
養育費のために加害者と接触し続ける必要はない
DVやモラハラの被害を受けた方の中には、「養育費をもらうためには定期的に元配偶者と連絡を取り合わなければいけない」と思い込んでいる方がいらっしゃいます。しかし、加害者との直接のやり取りは支配関係を再燃させ、恐怖を呼び起こす原因となります。接触を絶った状態でも養育費を受け取る方法が存在します。
子どもの権利と親同士の関係を分ける
養育費は、夫婦間の感情や問題に対する対価ではなく、「子どもが親から養育を受けるための権利」です。
離婚によって親同士の婚姻関係が解消されても、親が子に対して負う扶養義務(自分と同じ水準の生活を保持させる生活保持義務)が消滅することはありません。これは加害者にとっても逃れられない法的な義務です。
「相手と関わりたくないから」と養育費を完全に断念してしまうと、離婚後のひとり親世帯の経済的基盤が脅かされ、子どもの生活や選択肢が狭まってしまうリスクがあります。「親同士の人間関係の遮断」と「子どもの権利である養育費の確保」は完全に別個のものとして分離して進めることが基本です。
連絡窓口を第三者にする方法
加害者と直接電話やメッセージのやり取りを行うと、暴言を受けたり居場所を探られたりする危険があります。そのため、取り決め交渉や振込に関する連絡の窓口には、必ず第三者を挟む仕組みを作りましょう。
最も確実なのは、弁護士を代理人として立てることです。弁護士が窓口になれば、相手からの連絡はすべて弁護士事務所を経由することになり、本人が加害者の言葉や圧力に直接晒されることがなくなります。
また、弁護士を依頼しない場合であっても、直接のやり取りを行わず、家庭裁判所の調停手続きを通じて調停委員を介してのみ話し合いを進める方法や、養育費の徴収・送金を代行する民間保証会社や養育費受取専用アプリなどを利用して個人の連絡先を非開示にする方法もあります。
養育費の条件を具体的に決める
加害配偶者とのやり取りを最小限に抑え、後からのトラブルを防ぐためには、最初に決定する養育費の条件を「誰が見ても一意に解釈できる内容」として極めて具体的に明記しておく必要があります。曖昧な取り決めは、相手に連絡をとらせる口実を与えてしまいます。
金額・期間・振込日
養育費の基本的な算定には、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」が基準として広く用いられます。お互いの総収入や子どもの人数・年齢に応じて客観的な相場が算出されるため、直接の感情的な駆け引きを行わずに済みます。
毎月の支払額に加え、「いつまで支払うのか(例:子どもが20歳に達する月まで、大学を卒業する22歳の3月まで等)」という終了時期を明確に定めます。さらに、「毎月25日(金融機関の休業日の場合は翌営業日)までに指定の口座へ振り込んで支払う」という振込期日と指定口座を具体的に文書へ記載します。
進学や医療など臨時費用
毎月の定額の養育費とは別に、将来発生する「特別な費用(臨時費用)」についてもあらかじめ扱いを決めておかないと、費用の発生時に直接交渉せざるを得なくなります。
具体的には、高校・大学等への進学費用(入学金や授業料)、長期間の入院や歯科矯正などの大きな医療費、塾や習い事の費用などについて「どのように分担するか」をあらかじめ条項に盛り込みます。「発生時に双方が協議して決定する」という文面にしてしまうと相手との直接交渉が必要になってしまうため、「事前に通知したうえで算定表の比率に応じて分担する」など、手続きの手順をあらかじめ定めておくことが推奨されます。
住所や勤務先変更時の対応
離婚後に元配偶者が無断で転居したり転職したりすると、支払いが滞った際に追跡が困難になります。
そのため、「勤務先や住所、振込口座などに変更が生じた場合は、変更後14日以内に書面(または代理人弁護士)を通じて通知しなければならない」という通知義務を条件に加えておきます。もし被害者側の住所が閲覧制限措置(DV防止法に基づく住民票の閲覧制限など)の対象になっている場合は、こちらの新住所を明記せず「指定の連絡先(弁護士事務所や私書箱等)」を通知窓口と指定することで、安全を守りながら相手側の情報変更を把握することができます。
不払いに備える方法
どれほど具体的に条件を取り決めても、DVやモラハラの加害者は離婚後に「自分を侮辱した」「子どもに会わせない」といった身勝手な理由をつけて養育費の支払いを突然停止するケースが少なくありません。相手からの連絡に応じなくても不払いを強制的に回収できるよう、公的な効力を持つ文書を作成しておくことが不可欠です。
公正証書を作成する
当事者間の話し合いで養育費の合意に至った場合は、必ず公証役場で「離婚給付等契約公正証書」を作成します。口約束や当事者同士で作成した一般的な離婚協議書だけでは、支払いが滞った際に直ちに強制執行を行うことができません。
公正証書を作成する際は、必ず「認諾条項(債務者が支払いを怠った場合、直ちに強制執行を受けても異議がない旨の文言)」を挿入します。認諾条項付きの公正証書があれば、不払いが発生した際に裁判を起こすことなく、相手の給与や預貯金口座を差し押さえる強固な法的効力を得ることができます。
調停で取り決める
当事者同士での協議が不可能な場合や、公正証書の作成に応じない場合は、家庭裁判所に「養育費請求の調停」を申し立てます。
調停手続きでは、裁判官や調停委員が介入し、双方から収入証明書(源泉徴収票や確定申告書など)の提出を求めて客観的に判断を進めます。調停で合意に達して作成される「調停調書」、あるいは調停が不成立となり審判によって決定される「審判書」は、公正証書と同様に強力な執行力を持ちます。
不払いが生じた際には、裁判所を通じて「履行勧告」や「履行命令」を出してもらうことができるほか、直接相手と交渉することなく給与の差し押さえ手続きへ移行できます。
支払記録を保存する
養育費の管理を行う際は、毎月の振込履歴を正確に保存し続けることが大切です。
養育費の受取用口座は、普段の生活費口座とは別にするか、記帳を定期的に行って振込名義人・金額・日付が明瞭に残る状態にしておきます。万が一支払いが途絶えた際に、いつからいくら不払いになっているかを客観的に証明する資料となり、代理人弁護士や裁判所を通じた迅速な差し押さえ手続きに役立ちます。
養育費を理由に面会を強要された場合
加害配偶者から「養育費を払っているのだから子どもに会わせろ」「面会させないなら養育費の支払いを止める」と主張されるケースは非常に多く見られます。しかし、法律上も実務上も、養育費の支払いと面会交流の実施はまったく別の問題として扱われます。
養育費と面会交流は別の問題
法律において、養育費の支払い義務と面会交流の実施は対価関係(引き換え条件)にはありません。
養育費は子どもの生活と育成を支えるための金銭的義務であり、面会交流は子どもの健やかな成長や福祉のために実施されるものです。「面会を拒否されたから養育費を払わない」という主張も、「養育費が支払われないから面会させない」という主張も、どちらも法的には認められません。相手が養育費を理由に面会を強要してきた場合でも、毅然として法律上の原則を主張し、直接の対話に応じる必要はありません。
子どもの安全を中心に検討する
面会交流を検討するにあたって、何よりも最優先されるべきは「子どもと親(被害者)の安全と精神的安定」です。
過去に子ども自身への暴力や虐待が存在した場合だけでなく、母親(父親)への面前DVによって子どもが強いトラウマや恐怖を抱いている場合、あるいは面会を通じて新たな居場所の特定や連れ去りのリスクがある場合は、面会交流を制限・打ち切りにする正当な理由となります。
もし面会交流を行う場合であっても、直接の受け渡しを避け、面会交流支援機関(第三者機関)を間に挟んで安全を確保する条件を取り決めるなど、子どもの福祉にかなう安全対策を最優先に講じる必要があります。
まとめ
DVやモラハラを受けた後の離婚において、養育費を受け取ることは、あなたと子どもの今後の安心した生活と権利を守るために非常に重要な意味を持ちます。
大切なのは、「養育費を受け取ること」と「加害者と接触すること」を明確に切り離すことです。直接の対話や連絡を完全に避け、弁護士や裁判所、専門の支援機関を窓口に立てることで、身の安全と心の平穏を保ちながら手続きを進めることができます。
取り決めを行う際は、毎月の金額や期間だけでなく、臨時費用や不払い対策(公正証書や調停調書の作成)を客観的かつ厳格に定めておくことが大切です。
一人で加害者の圧力に対峙しようとする必要はありません。警察や配偶者暴力相談支援センター、弁護士、法テラスなどの公的支援機関の力を借りながら、安全な環境であなたと子どもの納得のいく選択肢を一つずつ整えていってください。フタリエは、あなたが自分自身の意思で安心して前を向けるよう心から応援しています。
参考情報
・厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査結果」
・法務省「養育費の取り決め方について」
・裁判所「養育費・婚姻費用算定表」
・法テラス「DV被害と養育費請求」
※この記事は一般的な情報を提供するもので、個別の事情に対する法律上の判断を行うものではありません。具体的な対応については、弁護士、配偶者暴力相談支援センター、法テラスなどへご相談ください。




